リスクとリターンを正しく理解する
─ 震災・暴落は「何シグマ」の出来事か?
「リスクが高い」「リターンが期待できる」─ こうした言葉は投資の世界で日常的に使われますが、実際にどれくらいの振れ幅を覚悟すればよいのか、具体的に把握している人は多くありません。本記事では、人気インデックスファンドのeMAXIS Slimシリーズを例に取り、リスク(標準偏差)とリターンのデータを整理したうえで、リーマンショック・トランプショック・コロナショックといった歴史的暴落が「確率論的に見てどれほど稀な出来事だったか」を解説します。
1. リスクとリターンとは何か
投資におけるリターンとは、ある期間にどれだけ資産が増減したかを年率で表した値です。一方、リスクとは収益率のばらつき(標準偏差)を指します。標準偏差が大きいほど、リターンが上にも下にも大きく振れる可能性があることを意味します。
リスクは「損失の危険性」だけでなく、「リターンの不確かさ(振れ幅)」を意味します。リスクが大きいほどリターンも大きくなる可能性がある一方で、損失も大きくなりえます。
正規分布の考え方に基づけば、リターンが平均±1σ(標準偏差の1倍)の範囲に収まる確率は約68%、±2σ以内なら約95%、±3σ以内なら約99.7%とされています。
| σ水準 | 確率 | 発生頻度(年単位) | イメージ |
|---|---|---|---|
| ±1σ以内 | 68.3% | ほぼ毎年起こりうる | 普通の年の市場変動 |
| ±1〜2σ | 27.1% | 3〜4年に1度 | トランプショック級 |
| ±2〜3σ | 4.3% | 20〜30年に1度 | コロナショック級 |
| 3σ超 | 0.3%以下 | 理論上300年以上に1度 | リーマンショック級 |
※あくまで正規分布を前提とした理論値です。実際の金融市場では「ファット・テール」により、極端な事象はこの確率より頻繁に起こりえます。
2. eMAXIS Slim 4ファンドのリスク・リターン比較
以下の表は、eMAXIS Slimシリーズの代表的な4ファンドについて、ウェルスアドバイザー(wealthadvisor.co.jp)をはじめとする各種開示データを参照し、2025年末時点の実績をまとめたものです。リスク(標準偏差)は年率換算値です。
| ファンド名 | 資産分類 | 年率リターン(5年) | 年率リターン(3年) | リスク(標準偏差・5年) | シャープレシオ |
|---|---|---|---|---|---|
| eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) | 全世界株式 | +22.1% | +16.8% | 17.5% | 1.18 |
| eMAXIS Slim 国内株式(日経平均) | 国内株式 | +16.4% | +14.2% | 18.6% | 0.84 |
| eMAXIS Slim 先進国債券インデックス(除く日本) | 先進国債券 | +8.9% | +5.3% | 8.2% | 0.65 |
| eMAXIS Slim バランス(8資産均等型) | バランス型 | +12.3% | +9.4% | 11.4% | 0.96 |
※ウェルスアドバイザー・三菱UFJアセットマネジメント開示データ等を基にした参考値(2025年末時点概算)。投資判断の際は必ず最新の目論見書・運用報告書をご確認ください。
読み方の例:オール・カントリーは年率リターン約22%・リスク約17.5%。「平均的な年は±17.5%の範囲内で動く可能性が68%」ということを意味します。良い年は+39.5%になりえる一方、悪い年は−4.5%になりえます(1σの範囲)。
3. 歴史的ショックは「何シグマ」の出来事だったか?
過去の大暴落が、各ファンドの標準偏差と比較してどのくらいの「外れ値」だったかを整理します。シグマ数が大きいほど「理論的には起こりにくいはずだった」ことを意味します。
各ショック時の最大下落率(円ベース・概算)
| ショック | 発生時期 | 全世界株式 | 日本株 | 先進国債券 | 8資産均等型 |
|---|---|---|---|---|---|
| リーマンショック | 2008〜09年 | ▲51.3% | ▲56.7% | ▲12.1% | ▲38.0% |
| トランプショック(米大統領選後) | 2018年10〜12月 | ▲19.2% | ▲17.5% | ▲4.5% | ▲12.8% |
| コロナショック | 2020年2〜3月 | ▲29.4% | ▲26.8% | ▲8.7% | ▲22.1% |
※リーマンショックはeMAXIS Slim設定前のため、各対象インデックスの実績値を参照した概算。円換算ベース。
シグマ換算と発生確率
上記の下落率を各ファンドの年率リスク(標準偏差)で割ることで「何σの出来事だったか」を算出します。
| ショック × ファンド | 下落率 | 年率リスク(σ) | σ換算 | 確率レベル | 理論上の発生頻度 |
|---|---|---|---|---|---|
| リーマン × 全世界株式 | ▲51.3% | 17.5% | ≒ 2.9σ | 0.19% | 約500年に1度 |
| リーマン × 日本株 | ▲56.7% | 18.6% | ≒ 3.1σ | 0.10% | 約1,000年に1度 |
| リーマン × 先進国債券 | ▲12.1% | 8.2% | ≒ 1.5σ | 6.7% | 約15年に1度 |
| リーマン × 8資産均等型 | ▲38.0% | 11.4% | ≒ 3.3σ | 0.05% | 約2,000年に1度 |
| トランプ × 全世界株式 | ▲19.2% | 17.5% | ≒ 1.1σ | 13.5% | 約7年に1度 |
| コロナ × 全世界株式 | ▲29.4% | 17.5% | ≒ 1.7σ | 4.5% | 約22年に1度 |
| コロナ × 日本株 | ▲26.8% | 18.6% | ≒ 1.4σ | 8.1% | 約12年に1度 |
| コロナ × 8資産均等型 | ▲22.1% | 11.4% | ≒ 1.9σ | 2.9% | 約35年に1度 |
※σ換算は「|下落率 ÷ 年率標準偏差|」による概算。実際の金融市場はファット・テール分布であり、正規分布より極端な事象が頻繁に発生します。確率・頻度はあくまで正規分布を前提とした理論値です。
リーマンショックは理論上「500〜2,000年に1度」の出来事でした。しかし現実には、わずか100年の間に複数回の大恐慌・金融危機が発生しています。これは金融市場が正規分布よりも「極端な動き」をしやすい(ファット・テール)ことを示しており、標準偏差だけを見ることの限界も意識する必要があります。
4. 各ファンドのリスク特性まとめ
| ファンド | リスク水準 | リターン水準 | ショック耐性 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 全世界株式(オルカン) | 高(σ≒17.5%) | 高 | 低〜中 | 世界分散でやや安定的。長期では高リターン期待。 |
| 日本株(日経平均) | 高(σ≒18.6%) | 中〜高 | 低 | 為替影響なし。景気・政治に左右されやすい。 |
| 先進国債券 | 低(σ≒8.2%) | 低〜中 | 高 | 値動き小さい。ただし円安時は為替で変動大。 |
| 8資産均等型 | 中(σ≒11.4%) | 中 | 中 | 8資産に分散。大暴落時も株100%より下落は小さい。 |
5. 振れ幅に耐えられる資産配分こそ、長期投資の要
ここまで見てきたように、リーマンショックやコロナショックはいずれも「理論的には滅多に起こらないはずの出来事」でした。しかし現実の投資人生において、こうした大暴落は1度ならず経験しうるものです。
最も大切なのは、「いざ暴落が来ても、売らずに保有し続けられる」ポートフォリオを事前に組むことです。過去のデータが示すように、いずれのファンドも長期的には回復・成長してきました。しかし途中で売却してしまえば、その回復益を享受することはできません。
たとえばコロナショック(全世界株式で約▲29%)に耐えられるかどうかを基準に考えると:
・100万円の投資が70万円まで減っても「持ち続けられる」と思えるなら、株式型メインのポートフォリオが向いています。
・80万円以下になると焦ってしまうなら、8資産均等型や債券を組み合わせた構成が向いています。
・精神的に苦しくなるとわかっているなら、最初から「リスクを下げる配分」を選ぶことが合理的です。
リスクの数字(標準偏差)は、自分が受け入れられる振れ幅かどうかを測るものさしです。高いリターンを狙うことも大切ですが、それ以上に「どんな局面でも継続できる配分」を選ぶことが、長期的な資産形成の成否を分けます。
まずは自分が「何σの暴落まで耐えられるか」を意識しながら、自分に合った資産配分を見つけてみてください。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入・売却を勧誘するものではありません。投資にはリスクがあり、元本を割り込む可能性があります。掲載データはウェルスアドバイザー・三菱UFJアセットマネジメント・各証券会社の公開情報を参照した参考値(2025年末時点概算)であり、将来の運用成果を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。
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